広島家庭裁判所 昭和26年(家)178号 決定
一、当事者
申立人 兒嶋○○
明治十九年十月五日生
二、主 文
申立人の氏である兒嶋を児島と変更することを許可する。
三、理 由
申立人は主文同旨の審判を求め、その事実上の理由として、申立人の家名は添付戸籍謄本の通り祖先以来兒嶋であるが、特殊の必要ある場合を除いては便宜書き易い児島を用いてきた。自然他人は申立人の氏を兒島と信じ、公文書に至るまで児島が用いられるのが常である。近年定められた常用漢字中にも、兒、嶋共に抹殺されてもいるので、この際申立人の氏を常時用いている児島に変更したいので、この許可を求めるというのである。
そこで考えるに、氏は人を特定すると同時に、人の属する家庭を特定し、系譜的意義をも併有するものである。氏が容易に変更せられるということは、人の社会的特定性を害すばかりでなく、社会構成の一単位である家庭の特定性をも乱すおそれがあるので、戸籍法第十七条はやむを得ない事由がある場合でなければ氏の変更は許されないことを定めたのである。常用漢字が制限せられたのは、字劃のむずかしい漢字や、読み難い漢字を日常使用する文字から除外して、学習や事務の能率を挙げ、ひいて文化の向上に資するためであるから、常用漢字の制限が法目的に背馳するような場合でも、なお且つ制限されねばならぬというものではない。従つて常用漢字にないという一事をもつて氏を変更するためにやむを得ない事由ありとは為し得ないのである。ただ本件の場合は兒嶋を児島と変更するだけで、コトバの変更や読み方の変更を伴わない。文学のみの変更であるし、文字の有する意味にもさしたる変りは認められない。なお、児嶋という文字は、その運筆がむずかしいのと、字劃が多いため、通常書き易い児島が用いられ、本来の氏である兒嶋が死亡化していることも認められる。このような場合はむしろ本来の氏を児島と変更して名実を一致させることが、氏の特定を期する法の精神に合致するものと考えられるのである。この種の氏に属するものは、他に小嶋、中嶋、大嶋、嶋田、嶋崎等相当多数に上ると思われるが、当裁判所は以上のような理由で本件申立を相当と認め、家事審判法第三条により主文の通り決定する。